第8回 「ちゃんとやって」の前にできること~大人の声かけが子どものチャレンジを止めることがある~

はじめに
「ちゃんと走って!」「もっと集中して!」「真剣にやりなさい!」
よかれと思ってかけているその一言。
でも実は、それが子どものチャレンジする気持ちを止めているかもしれません。
今回は、「大人の声かけ」が子どもの心にどう響くのかを掘り下げ、
より良い声かけへのヒントを一緒に考えていきます。
「ちゃんとやって」は、実はとても曖昧な言葉
子どもにとって、「ちゃんとやる」とは何を指すのでしょうか?
走ること? 集中すること? 負けないこと? それとも怒られないこと?
大人にとっての「ちゃんと」と、子どもにとっての「ちゃんと」にはズレがあります。
曖昧な言葉ほど、子どもには伝わりにくく、「怒られないように行動する」という受け身の姿勢につながります。
善意の言葉がプレッシャーになることも
例えば、こんな場面を思い浮かべてください:
- 試合前に「今日はちゃんと頑張ってよ!」と声をかける
- 練習中に「もっとしっかりやれ!」と強く言う
- 試合後に「全然ダメだったじゃん」と評価する
これらの言葉はすべて、子どもの「頑張ろう」とする気持ちを高めるためのつもりかもしれません。
でも、受け取る子どもの心の中ではこう変換されることがあります:
「ちゃんとしなきゃ怒られる」
「ミスしたら責められる」
「うまくやらないと認めてもらえない」
つまり、善意の言葉が「恐れ」や「緊張感」にすり替わり、
子どもが安心してチャレンジできなくなるのです。
声かけの前に大切なのは、「観察」と「共感」
大人が声をかけたくなるときこそ、少し立ち止まって、子どもの様子をよく観察してみてください。
本当に「ちゃんとしてない」のでしょうか?
それとも「必死にやっているけど、うまくいっていないだけ」かもしれません。
そんなときに効果的なのが、共感の姿勢です。
- 「暑い中でも頑張ってるね」
- 「今日はうまくいかないこと多いね。でもやろうとしてるの、わかるよ」
- 「今日はどうだった?自分でどう思った?」
こうした声かけは、子どもの心を開き、自分のことを見てもらえているという安心感を与えます。
そこから、自ら考え、自ら行動する力が育っていきます。
指示よりも「問いかけ」が子どもの意欲を育てる
一方的に「もっと頑張れ」と言われるより、
「今日はどんなことにチャレンジしたい?」と問いかけられたほうが、
子どもは自分の意志で行動しようとします。
問いかけは、子どもに「自分で考える力」を渡すコミュニケーションです。
- 「あの場面、どうしたかった?」
- 「自分で納得できたプレーあった?」
- 「次はどんなことを意識したい?」
こうしたやりとりの積み重ねが、主体的に取り組む姿勢を育てていきます。
まとめ
「ちゃんとやって!」という言葉の裏には、「うまくやってほしい」「真剣に向き合ってほしい」という親の願いがあります。
でもその伝え方ひとつで、子どもの受け取り方は大きく変わります。
大切なのは、「指示」ではなく、「理解」や「共感」を起点にすること。
子どもが自ら考え、チャレンジし、失敗しながら成長していける環境を、大人がつくっていきましょう。
▶次回予告
【第9回】子どもの“その日そのとき”の背景に目を向けてみよう〜見えない疲れや心の揺れを理解する視点〜
次回は、プレーだけを見て評価するのではなく、その日の子どもを“まるごと見る”という視点について深掘りしていきます。